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コラム

悲しみと落胆。そして、感謝と安堵。大記録を逃したジョコビッチが手にしたもの

2021.09.13|18:30|投稿者: THE TENNIS DAILY
悲しみと落胆。そして、感謝と安堵。大記録を逃したジョコビッチが手にしたもの

フラストレーションを溜め、執拗にラケットをコートにたたき付けるノバク・ジョコビッチ(セルビア)。初優勝を決めると、アニメの登場人物が気を失うのとそっくりの動きでコートに崩れ落ちたダニール・メドベージェフ(ロシア)。印象的な光景がいくつも見られた男子シングルス決勝だった。

視線が吸い寄せられたのは、終盤のチェンジエンドでベンチに座り、タオルに顔を埋めて小さく体を震わせるジョコビッチの姿だった。


ジョコビッチは、絶好調のメドベージェフの前に、いいところなく敗れようとしていた。今の時代に達成は不可能と見られていた年間グランドスラムに王手をかけながら、夢はほぼ消えかけていた。フラッシングメドウズのファンは、黙っていられなかったのだろう。敗色濃厚ではあったが、割れるような声援や拍手、口笛を、ジョコビッチはどんな気持ちで聞いたのか。


「さまざまな感情が押し寄せていた。悲しい気持ちもどこかにあった。多くのことが懸かっていただけに、敗北を飲み込むのは大変だった。でも一方で、これまでの人生で感じたことのないものを感じていた。観客は僕を特別な気持ちにしてくれた。彼らは僕を驚かせてくれた。予期していなかったほどの応援やエネルギー、愛を受け取った。一生忘れられないだろう。これが涙の理由だよ。押し寄せた感情やエネルギーの強さは、グランドスラムを21回制覇したのに等しいほどだ。彼らは私の心に触れてくれた。もちろん勝ちたいさ。アスリートなのだから。(でも)こうした瞬間は大事にしたい。人とのつながりは長い間続くものだから」


ジョコビッチは、その実績と実力に見合う人気を獲得していない。史上最強の選手と認められ、支持される。ファンはその精緻で隙のないプレーに感嘆のため息を漏らし、選手の間でも広く尊敬を集める。ただ、判官びいきのファンは、強すぎるジョコビッチより対戦相手に声援を送る。人気者のロジャー・フェデラー(スイス)やラファエル・ナダル(スペイン)に対し、ヒール役に位置付けられることも少なくない。ウィンブルドンでフェデラーとの直接対決ともなれば、観衆の7割くらいがフェデラー側につくだろう。少なくとも、世界中の誰にでも愛される選手かといえば、そうではない。おそらくジョコビッチもそのことをどこかで気にしている。


試合に勝ったジョコビッチが、観客席の四方に感謝のシグナルを送る姿を「イタい」と受け取るファンも一定数いるようだ。だが、これはもちろん、ファンへの真摯な感謝だ。余談だが、ジョコビッチは報道陣にも心づかいを忘れない。四大大会などで優勝すると、記者会見場の我々にもシャンパンやグルテンフリーのケーキやチョコレートをごちそうしてくれることがある。あまりにも強すぎるから忘れがちだが、ジョコビッチも人とのつながりを大事に考える一人の人間なのだ。


表彰式を待つ間、ジョコビッチは静かにベンチに座っていた。


「安堵していた。すべてが終わってよかった、と。この2週間は精神的、感情的に対処しなければならないことが多く、大変だった。終わってよかったなと。それと同時に、悲しみや落胆もあった。そして、観客と彼らが僕のために作ってくれた特別な瞬間に対し、感謝していた」


安堵した、というのが興味深い。正直な気持ちだろう。人々がスポーツに求めるのは勝者の歓喜だけではない。失意や悲しみ、落胆や傷心も競技の一部であり、人間の複雑な心理は、こうした負の感情も当事者と共有したいと願うのだろう。ジョコビッチがそれを教えてくれた。


(秋山英宏)


※写真は「全米オープン」でのジョコビッチ
(Photo by Sarah Stier/Getty Images)

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