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弟・良仁と同じ世界で生きる。西岡靖雄が選んだツアーコーチの道(後編)

2020.09.30|17:00|投稿者: 岡田洋介
弟・良仁と同じ世界で生きる。西岡靖雄が選んだツアーコーチの道(後編)

弟の西岡良仁に帯同してATPツアーを回っていた西岡靖雄は、あるとき、友人の内山靖崇から言われたひと言がきっかけで単身スペインに渡った。なぜ、スペインへーー。帰国後にプロテニス選手をサポートする組織「Project E.O」を立ち上げた彼が語ったのは、ツアーコーチとして生きると決めた西岡靖雄のプライドだった。

ツアーコーチのスキルを上げたいなら外に出たほうがいい

2016年の夏、西岡靖雄(以下、西岡)は弟の良仁のサポートのため北米遠征に帯同した。西岡が渡米する直前のATPチャレンジャー、ウィネトカ大会(賞金総額5万ドル)で優勝した良仁は、目標だった世界100位のカベを突破し、自己最高位の85位でシーズン最後のグランドスラム、全米オープンに臨んでいだ。その会場のフラッシングメドウで、西岡はスペイン人のコーチ、カルロス・マルティネスとコンタクトをとった。

西岡靖雄監督

「カルロスからは冗談半分に、日本のテニスがこれから変わるかどうかはお前にかかっているぞ、と言われました」

――マルティネス氏は内山靖崇選手のコーチですか?

「はい、当時、バルセロナのテニスクラブを拠点に活動していた靖崇君が指導を受けていたコーチです」

――どういう経緯でマルティネス氏と会ったのですか?

「全米オープンの前に靖崇君と食事をしていたとき、彼に『靖雄はこのままずっと弟についていていいのか』と言われたんです。最高峰の大会にいるけど、それは良仁の兄だからツアーを回れているだけで、ツアーコーチとしてのスキルを上げていきたいなら、絶対に外に出たほうがいいと思う、と。それで僕もスペインでツアーコーチの勉強をしようと思い、靖崇君にカルロスを紹介してもらったんです。当時、僕は英語はほとんどできなかったけど『とにかく行きたい』とカルロスに話したら、『OK、いつから来るんだ?』と、その場でスペイン行きが決まりました」

――スペインにはどれくらい行っていたのですか?

「2017年の春にバルセロナに行って、途中で一時帰国したりツアーを回ったりしましたけど、1年半くらいいました。スペインでの経験は、僕の人生において大きかったですね。向こうでは、カルロスが指導していた元WTAランキング2位のスベトラーナ・クズネツォワにつかせてもらって練習サポートをしたり、マドリードオープンに帯同したりして、いろんなことを学ばせてもらいました。

その中でも衝撃的だったのは、クズネツォワのプレーです。試合中、サイドに振られたボールに対して、本来ならクレーで足場が滑るので2歩くらいで行かなきゃいけない場面で、彼女は1歩目で足を広げてカウンターでエースを獲ったんです。それを見た瞬間、これが世界のトップ10のテニスだと思い知らされました。そして、じゃあ、どうやったら日本の女子選手が彼女に勝てるのかな、と考えるようになりました。これから僕は日本人選手を教えることになるので、勝てる要素を見つけてそれを日本で教えていかないと、僕がスペインに来た意味がない、と思いました」

Project E.Oの意味は「出会い」と「きっかけ」

スペインで世界トップレベルのツアーコーチングやクレーコートの戦術を学んだ西岡は、2018年の秋に帰国。東京を拠点にツアーコーチとして本格活動すべく、チーム「Project E.O」を立ち上げ、福田詩織(米国オハイオ州立大学)、輿石亜佑美(竜興化学工業/プロ)、坂詰姫野(橋本総業ホールディングス/プロ)ら数名の女子選手のサポートを開始した。

西岡選手と輿石選手

「ジュニアを卒業した選手たちに必要なのは、ツアーの回り方やプロとしての生き方。そこをしっかり伝えていきたいです」 (写真提供:Project E.O)

――Project E.Oとは、どんな意味ですか?

「E.Oはスペイン語でEncuentro(出会い)とOportunidad(きっかけ)を表しています。このチームが、選手たちに多くの出会いを提供でき、そこから選手自身が新たに進んでいくきっかけになれればいい、という願いが込められています」

――チームにした理由は?

「実はスペインに行っていた間も、西岡靖雄個人としてツアーコーチの活動は行っていました。福田は僕がツアーコーチとして最初に担当した選手です。スペインから帰って日本で本格的に活動を開始することになった際、僕のコーチングの情報をより多くの選手に伝えていきたいと思って、チームにしました」

――ツアーコーチというのは、選手にとってどんな存在ですか?

「人によると思いますが、僕の考えでは、ツアーコーチは選手の家族であり、友人であり、コーチであり、そして一番大事なのは他人だということです。サポートしている選手とは、ほぼ毎日顔を合わせ、連絡を取り合いますし、お互い依存もします。でも、いずれ僕は彼女たちと離れることになります。それを理解した上で、どのような接し方をするかが大切になってきます。

とくに女子選手は難しい。男子選手とはまた違った考えを持っているので、まずは女性の感情を理解するところから始めました。たとえば試合に負けた後、いまは声を掛けないほうがいいなと思う時でも、女子選手の場合はほったらかしにしすぎると感情が向こうに行っちゃうし、逆に積極的に行きすぎるとプイッとなっちゃうし、非常にデリケート。ここは気を遣ってこういう声を掛けてほしいんだな、ここは静かにそっとしておいてほしいんだな、といった女子選手特有の携わり方を、僕は以前に澤柳璃子選手をサポートした際に学びました。彼女は喜怒哀楽がはっきりしている選手でしたから(笑)」

次は自分の選手と一緒にグランドスラムの地に立ちたい

西岡靖雄監督

スペインから帰国後にチーム「Project E.O」を立ち上げた西岡は現在、福田詩織(写真右)、輿石亜佑美(写真左)らをサポートしている

――テニスのコーチなら技術指導したり戦術を教えたりするのが仕事ですが、ツアーコーチという職業は選手にどんなサポートをするのが仕事ですか?

「もちろん技術的なことも教えますが、それよりもメンタル的なサポートの比重が大きいと思います。彼女たちは過去に全国大会で優勝してきている選手なので、基本技術は身に付いています。大事なのはプロとしてどう成長していけるかですから、ツアーの回り方やプロとしての生き方とか、そういったところを伝えていく必要があると思います。

たとえば僕が現在サポートしている輿石は、ジュニアを卒業してITF大会に出始めたころは1人で海外を回っていました。1人だと、出場した大会で勝つというシンプルな目標しかなく、その大会にどんな意味を持って臨むのかまでは考えられません。でも、僕が彼女をサポートすることで、計画的に大会のスケジュールを立てられます。この大会ではここにチャレンジしてみよう、ピークをこの大会に持っていきたいから、そのためにトレーニングや練習の時間を作ろう、と。経験値のあるツアーコーチが携わることで、選手は結果を出しつつ年間を通してレベルアップを図れるようになります」

――その後、良仁選手のサポートは?

「グランドスラム大会など、年に1、2回は僕もコーチングの勉強を兼ねて帯同しています。弟も、家族が来てサポートしてくれるのは助かると言ってくれていますね。僕は運が良かったと思います。最初から弟と一緒に世界のトップの舞台に行けて、その後もいろんな人とのつながりで世界のトップ選手たちが練習する環境に身を置けましたから。次は、自分の選手と一緒にグランドスラムの地に立ちたいですね」

チーム「Project E.O」が現在サポートする福田(WTAランク842位)や輿石(WTAランク937位)にとって、グランドスラムはまだはるか彼方にある夢舞台だ。「選手たちが自分の人生を賭けてやっているのと同じように、僕はコーチとしてあの場に行くことを、自分の人生を賭けて目指していきます」。その言葉に、ツアーコーチとして生きると決めた西岡靖雄のプライドを感じた。


西岡靖雄監督

西岡靖雄(にしおか・やすお)

1993年生まれ。三重県出身。四日市工業高校から亜細亜大学へ進学。大学卒業後、ツアーコーチとして活動を開始し、弟の西岡良仁選手等のサポートを行う。2017年にスペインに渡ってツアーコーチング等を学ぶ。帰国後、2019年1月にプロツアーチーム「Project E.O」を立ち上げる。元プロ選手の牟田口恵美とともにYouTubeチャンネル『やす☆えみチャンネル』を運営中。


西岡靖雄の愛用ラケット

ヨネックス 「Vコア100」

「弟の良仁も同じ機種ですけど、僕は面が大きくて軽い100を使っています。このシリーズはヨネックスの中では硬すぎず軟らかすぎず、コントロールしやすいのでヒッティングやコーチングの時に便利です。ヨーロッパにいた頃から評判の高かったラケットです」(西岡)

ヨネックス 「Vコア100」

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岡田洋介
2020.09.30 17:00 投稿者:
岡田洋介
1968年、群馬県生まれ。出版社でスポーツ誌の編集職を経て独立。 スポーツライターとしてテニスのグランドスラム大会等の取材活動を行うほか、ゴルフ誌やランニング誌等に寄稿する。 2005年にテニスレッスン専門の動画配信サイト『テニスストリームTV(www.tennisstream.tv)』を立ち上げ、 テニス愛好者に役立つ上達情報を配信している。趣味の百名山登山は現在20座制覇! 【編集協力】『配球とコンビネーションで勝つテニスダブルス』(学研プラス)、『白木式コアトレ ベーシックメソッド』(学研プラス)

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