今すぐTennis-Pointアプリをダウンロードしよう!

いつでもどこでもテニスを楽しもう!

column

弟・良仁と同じ世界で生きる。西岡靖雄が選んだツアーコーチの道(前編)

2020.09.18|17:00|投稿者: 岡田洋介
弟・良仁と同じ世界で生きる。西岡靖雄が選んだツアーコーチの道(前編)

プロツアーコーチの西岡靖雄は、男子ツアーで活躍する西岡良仁の2歳上の兄である。かつて自らプロ選手を目指し、その後「良仁の兄」というレッテルから逃れるために別の道も模索したという彼が、なぜ弟と同じ世界で生きる決断を下したのか。ツアーコーチを志した経緯を西岡靖雄に聞いた。

弟の良仁選手に帯同してタイのチャレンジャーへ

「弟とは気持ち悪いくらい仲いいですよ。ニューヨークに行っているときに二人で一緒に買い物に行ったりとかしますから。彼が僕のことを大好きなので、ホントに。僕がいまラインしたらすぐに返事が返ってくるくらい好きですから。これは書いてもらって構いませんよ」。そう笑う西岡靖雄(以下、西岡)の表情は、2歳下の弟とよく似ている。

弟の良仁が盛田正明テニスファンド(MMTF)の奨学選手に選抜されて米国フロリダにあるIMGテニスアカデミーに留学したのは、良仁が中学3年生のときだった。以来、兄と弟は大人になるまで年に数日顔を合わせる程度しか接触がなかった。「本来だったら18歳くらいまでは兄弟一緒に生活するじゃないですか。でも、僕らは2人で過ごすべき時間を過ごしてこなかったので、いま、その時間がきているんじゃないかな、と思っています」

長く離れて暮らしていた弟との交流が復活するきっかけは、西岡が大学卒業後の進路として、ツアーコーチという職業を考え始めたことだった。良仁がプロに転向して2年目の秋、西岡は弟に誘われてタイで行われたチャレンジャー大会にヒッティングパートナーとして帯同した。当時、亜細亜大学4年生だった西岡にとって、初めて経験する海外ツアーの舞台だった。

西岡良仁選手と西岡靖雄監督

「弟の良仁(写真左)も僕がいるとメンタル的に楽しくプレーができて助かると言ってくれたりします」(写真提供:Project E.O)

――タイのチャレンジャー大会はどうでしたか?

「大学や国内のITF大会とはレベルが違うので空気感が違いました。自分としてはフワフワしていなくても、選手たちからすると僕が浮いているように見えるらしくて、良仁から、もうちょっとピリピリしなきゃいけないよ、と言われました」

――それまで良仁選手と一緒に練習したことは?

「弟がプロになってから、そのときが初めてでした。彼は14歳でアメリカに行ったので、一緒にテニスすることもありませんでしたから。でも、その日から急に毎日顔を合わせることになったので、なんか気持ち悪かったですよ」

西岡は当時、亜細亜大学テニス部に籍を置いて選手として練習を積んでいた。一方の良仁はその2カ月前の全米オープンでグランドスラム本戦初勝利をあげ、直後のデビスカップ・コロンビア戦では日本代表に初めて招集された。久しぶりに受けた弟の打球は、大学テニスのそれとは別次元だった。

テニス界に残っても離れてもどっちにしろ弟と比較される

そもそも西岡がツアーコーチを志したのは、大学4年生のときに参加した教育実習で母校の四日市工業高校に帰ったときの出来事がきっかけだった。

――四日市工業は高校テニスの名門ですね。西岡さんの高校時代の戦績は?

「四日市工業がインターハイ団体3位になったときの団体メンバーでした。高校1年でしたが、僕が中学時代に戦績を残していたので、経験で入れてもらえた感じです。三重県には1学年下に全国トップレベルの選手たちがたくさんいたので、僕はそこから勝てなくなりました。高2、高3のときは全国大会には出ていません」

父親がプロテニスプレーヤーでテニススクール経営者という家庭環境で育った西岡は、9歳のときから弟と共にプロを目指して練習漬けの日々を送ってきた。西岡が15歳のときに出場したU15全国選抜ジュニア(中牟田杯)東海地域予選では、13歳で同じカテゴリーに出ていた良仁に勝ち、2人揃って全国大会に出場したこともあった。しかし、その後、盛田正明テニスファンド(MMTF)の奨学選手に選ばれ、米国留学を経て順調にトップ選手への道を駆け上がっていった弟とは対照的に、西岡は高校テニス、大学テニスで芳しい成績を残せていなかった。

西岡は、教育実習で再会した元四日市工業のテニス部顧問、金山敦思先生に進路の悩みを打ち明けた。

西岡靖雄監督

「大学で結果が出せればプロになりたかった。でも、ケガもあり、あまり結果が出せませんでした。大学卒業ぎりぎりまで、何になるか分かりませんでした」

――金山先生とどんな話をしたのですか?

「これからどうやっていこうか悩んでいる、と話をしました。弟と同じ土俵に行くことはほぼ不可能だと分かっているし、弟と比べられるのも嫌なので『テニスから離れることも考えています』と言ったら、金山先生が『テニスから離れて一般企業に入っても、弟がオリンピック選手になれば、その会社で、お前の弟はオリンピック選手なんだろう、という話になる。テニス界に残っても離れても、どっちにしろ弟と比較されるんだったら、自分でやりたいこと、靖雄にしかできないことをやればいいんじゃないか』という話をしてくれました。そのとき、選手は無理でもツアーコーチになるのはありかな、と考えるようになりました。で、その直後に良仁から『じゃあ一度、海外の大会に一緒に行ってみようか』と言われたんです」

強く打ってミスしないのがヒッティングパートナーの仕事

ツアーコーチは日本ではあまり馴染みがないが、世界中のツアー大会を転戦するプロ選手をサポートするのが仕事だ。ロジャー・フェデラーや錦織圭など高額賞金を稼ぐスター選手ともなれば、技術指導するコーチの他に、練習の相手役となるヒッティングパートナー、体作りをサポートするトレーナー、食事を担当する栄養士、スケジュールを管理するマネージャーなど数名のスタッフがチームを組んで選手を支える形が多い。だが、稼ぎの少ない下位ランクの選手の場合は、1人のツアーコーチがさまざまな役割を担うことになる。

西岡は、初めて弟に帯同したタイのチャレンジャー大会で、ツアーコーチの重要な役目の一つであるヒッティングパートナーを務めた。

西岡靖雄監督

「良仁のサポートでツアーを回っていて、勝った瞬間に彼が僕に向けてくれる喜びが、自分も嬉しくて。こういう世界に携われたら幸せだな、と思うようになりました」

――良仁選手のヒッティングパートナーはどうでしたか?

「ヒッティングパートナーとして大事なことは、ミスしちゃいけないけど、ある程度威力のある球を打たなきゃいけないことです。でも、僕はそれまでヒッティングはやったことがなかったので、すごく大変で、泣きそうでした。

今でもよく覚えているのは、ヒッティング中に弟が『もうちょっと強く打ってくれ』と言ってきたんです。でも、僕が強く打てば当然ミスするじゃないですか。『強く打ったらミスするんだよね』と何気なくつぶやいたら、『強く打ってミスしないでくれ、それが仕事でしょ』と彼に言われたんです。こっちからすると、トップ選手の球を強く打ってミスしなかったら俺もプロになるわ! という気持ちでしたけど、弟は、ツアーコーチを目指すんだったら、それができないとダメだよ、と僕に教えてくれたんだと思います」

――実際にプロの大会に行ってみて、ツアーコーチになる気持ちは固まったのですか?

「その段階ではまだ選択肢の一つでした。でも、ツアーは感情が100%の世界なので、選手たちは勝ったらすごく喜ぶし、負けたら人生大丈夫かっていうくらい不安になる。こんな本音の世界に携われるのは面白いなと思いました。普通の職業に就いたら、こんな経験はできないじゃないですか」

その後、ヒッティングのスキルを磨いた西岡は弟のサポート役としてグランドスラム大会やATPツアーを回りはじめた。また、女子選手の澤柳璃子に声を掛けられ、ヒッティングパートナーとして女子ツアーに帯同する経験も積んだ。そして弟と一緒に1年ほどツアーを回ったころ、西岡に転機が訪れた。

「靖雄はこのままずっと弟についていていいのか。最高峰の大会にいるけど、良仁の兄だからツアーを回れているだけじゃないのか……」

それは遠征中にある会場で西岡の1歳上の友人である内山靖崇から掛けられた手厳しいひと言だった。

(後編につづく)


西岡靖雄監督

西岡靖雄(にしおか・やすお)

1993年生まれ。三重県出身。四日市工業高校から亜細亜大学へ進学。大学卒業後、ツアーコーチとして活動を開始し、弟の西岡良仁選手などのサポートを行う。2017年にスペインに渡ってツアーコーチングなどを学ぶ。帰国後、2019年1月にプロツアーチームの「Project E.O」を立ち上げる。
元プロ選手の牟田口恵美とともにYouTubeチャンネル『やす☆えみチャンネル』を運営中。


西岡靖雄の愛用ラケット

ヨネックス 「Vコア100」

「弟の良仁も同じ機種ですけど、僕は面が大きくて軽い100を使っています。このシリーズはヨネックスの中では硬すぎず軟らかすぎず、コントロールしやすいのでヒッティングやコーチングの時に便利です。ヨーロッパにいたころから評判の高かったラケットです」(西岡)

西岡靖雄の愛用ラケット ヨネックス Vコア100

どう思いますか?

0

0

0

0

0

0

岡田洋介
2020.09.18 17:00 投稿者:
岡田洋介
1968年、群馬県生まれ。出版社でスポーツ誌の編集職を経て独立。 スポーツライターとしてテニスのグランドスラム大会等の取材活動を行うほか、ゴルフ誌やランニング誌等に寄稿する。 2005年にテニスレッスン専門の動画配信サイト『テニスストリームTV(www.tennisstream.tv)』を立ち上げ、 テニス愛好者に役立つ上達情報を配信している。趣味の百名山登山は現在20座制覇! 【編集協力】『配球とコンビネーションで勝つテニスダブルス』(学研プラス)、『白木式コアトレ ベーシックメソッド』(学研プラス)

» さらに読み込む 岡田洋介